古典的な活版印刷だからできるものを求めて

活版印刷がなぜシンプルといわれるのか
ローラーでインキを版につけて紙に押すだけだから

「活字」の供給が殆どなくなってしまった今、活版印刷の版素をやむなく「凸版」で代用している面がある。しかし、鉛の活字だけが活版ではなく、凸版を使った印刷も昔から活版印刷と呼ばれており、活版印刷機によってつくり出される印刷物はすべて「活版刷り」と定義されている。ハイデルプラテンのように、たったひとつのモーターで全ての駆動をまかなえる、まるでSLのような自動機から手キンと呼ばれる手動機に至るまで、活字はなくとも活版印刷機は、まだまだ現役として働き続けている。

『現代の活版印刷』に求められる特徴のひとつに「印影」がある。活版印刷の仕組みは版面にインキをのせて紙に押すことで転写させるものだ。しかし、それでは他の印刷との違いが明確にならないことから、より印圧を加えて凹みを出すことを求められている。ただ、印圧を強くすれば印字が太くなるため、印刷品質が低下してしまう。強印圧でもマージナルゾーンを低減し、印影を奇麗に見せることが『現代の活版職人』に要求される。

活版印刷の表現においては、ターゲットとするオブジェクトに、必ずしもインキを着けるとは限らず、白を見せるための、いわゆる「白抜き」という表現手段がよく使われる。印刷に限らず、絵画的手法としても広く使われているが、活版印刷の白抜きは、他の印刷とはかなり違った印象になる。それは、印圧を加えるゆえに「白」が浮き上がって見え、白に立体感が加わり、さらに印影も相まって、味わい深い『印刷物』となる。

印刷は、主に紙を媒体としての大量複製にその本質があり、かつて情報発信の唯一の手段としてその存在を示してきた。海外では15世紀からの長きに亘り、活版印刷術はその中心にあって役割を果たした。オフセット印刷が主流となる最近まで、活版印刷の『写真版』も大いに使われていた。今日では絵的な面白さを要求される場合を除いて出番は皆無に近いが、それでも敢えて写真版に挑戦するクリエーターたちもいる。

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